先週の金曜日にアメリカの証券取引委員会が金融株に対する
空売り規制を発表したのは皆さんもたぶん、ご存知だと思います。
この措置は金融セクターに関連するETFにも影響を与えています。
そこで今日は空売り規制というものがETFに与える影響から始まって、そもそもETFはどういう仕組みで運営されているのかという点まで掘り下げて復習してみたいと思うのです。
まずアメリカの証券取引委員会が金融株799銘柄を空売り禁止指定した理由は、折からの金融不安の状態で空売りによる金融株の作為的な値崩しを放置していたら、たいへんなことになってしまうという危機感によります。
ETFは対象外ところがETFは今回の措置の対象外でした。そこで「個別株を空売り出来なくても、ETFを空売りすればよい」という法の抜け穴が出来たわけです。空売りを仕掛けたい投資家にとって、これはラッキーな見落としですね。
ところが実際はETFによる空売りは必ずしも期待通りの成果を上げられない状況になっています。
金融関連のETFそれを説明するにあたって、先ず代表的な金融セクターのETFを紹介します。
iShares Dow Jones US Financial Services Index Fund(IYG)これはダウジョーンズ社の出している金融株指数をなぞるように設計されたETFです。ETFの規模としては純資産が3億ドル程度と、すこし小さめです。
組み入れ銘柄は:
バンカメ (BAC) 11.3%
JPモルガン (JPM) 10.9%
シティ (C) 7.7%
ウエルス・ファーゴ 7.2%
ゴールドマン (GS) 5%
などです。
もうひとつ、代表的なETFとして次のようなものがあります。
Financial Select Sector SPDR Fund (XLF)こちらは純資産が67億ドルと規模が大きいです。
組み入れ的には:
バンカメ (BAC)8%
JPモルガン (JPM)7.8%
シティ (C) 6.1%
AIG (AIG)5%
ウエルス・ファーゴ (WFC)5%
などとなっています。なお、こちらのETFの方が銘柄の分散が効いています。
最後に
ベア型の商品も紹介しておきます。ベア型というのはマーケットが下がると上昇するように設計されている商品です。
ProShares Ultra Short Financials (SKF)なお、この商品は上記のダウジョーンズ金融株指数に
−2Xで連動するように設計されています。言い換えれば、ダウジョーンズ金融株指数が1%下がると、SKFは2%上昇するように設計されているわけです。
すると最初に紹介したIYGが1%下がるとSKFは2%上昇しないといけない計算になるわけですね。
ところが今週のこれらのETFの動きを見ると、かならずしも所期の設計通りに動いて呉れませんでした。これはどうしてでしょう?。
それは折角ETFが金融株指数をなぞるように設計されていても、実際には空売り規制があるためにETFの値段を指数そのものに近づける作業に支障をきたしてしまったことが影響しています。
ETFはどうやって指数を追いかけるか?毎日、場が引けた後、ETFは
「ポートフォリオ・コンポジション・ファイル(=PCF)」という表を作成します。その表はそのETFの持ち株内訳とほぼ一致します。いま、
指定参加者(AP=Authorized Participant)と呼ばれる金融機関(=証券会社などです)はこの表と一致するひと揃えのポートフォリオを指定された信託機関に届けます。これと引き換えに
クリエーション・ユニット(=creation unit、通常はそのETF5万株ないしは10万株に相当します)と呼ばれる受益証券を受け取るわけです。
それでは証券会社はなぜそんな面倒なことをしてクリエーション・ユニットを貰いに行くのでしょう?
いま、仮に或るETFがザラ場中に凄く人気になって、そのETFのなぞるべき指数そのものより勢い余ってかなり上昇してしまったと仮定します。その場合、証券会社は「あ、ETFが割高になっているな」とわかった瞬間、そのETFを場で空売りするわけです。そうしておいて今度は指数そのもの、つまりそれは上の説明におけるPCFの持ち株一覧表に他ならないわけですけど、その「現物株」を自社の在庫、ないしは場で買い揃えるわけです。そして場が引けた後でそのセットを持ち込み、代わりにクリエーション・ユニット、つまり5万株ないし10万株単位のETF新株を受け取って、それで受け渡しを完了するというわけです。
上の議論は難しい言葉で言えば、一種の「鞘取り」、英語でいえばアービトラージです。
さて、ここで大事なことはそういう指定参加者による活発な鞘取り(=それはETFが指数を正確になぞってくれるためには無くてはならない営利活動なのですが)を促進するためには、ETFを自由に空売り出来ると同時に現物株も空売り出来る必要があるということです。
現物株の空売りが必要なケースいま、ETFの場でついている値段が、指数そのものより大幅に低くなってしまったケースを考えてみたいと思います。その場合、指定参加者である証券会社の鞘抜き方法としては割安になりすぎているETFを場で買って、それと同時にPCFの一覧表に出ている銘柄を空売りしてやれば良いわけです。証券会社は場で拾い集めたETFを5万株、ないしは10万株という束にして「これを差し出す代わりに現物を下さい」と言うわけです。そして空売りした分の受け渡しを貰った現物株でつけるというわけです。この場合、場で拾った5万株、10万株単位のETFを束にして持ち込む動作を
リダンプション・ユニット(=Redemption unit)と言います。
空売り規制のもたらす問題さて、ようやく今日の肝心の本題になるわけですけど、今回のように「金融株の空売りは、まかりならぬ」という事が宣告されると上のリダンプション・ユニットを作る作業が出来なくなるのです。
また、ProShares Ultra Short Financials(SKF)の場合、2倍の逆相関の動きを保証する、証券会社が提供するデリバティブの現物ヘッジが出来なくなります。(これはノーツと呼ばれる店頭デリバティブを活用したETFの「変形」ですけど、議論が細かくなるので今日は割愛します。)
そんな、こんなで、空売り規制発表後の上記のETFはどうも値動きが指数から乖離しがちだし、鞘取りが自由にできないこともあってか、出来高的にも期待はずれでした。
posted by 踏み上げ太郎 at 10:43|
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